Research(基礎研究)

【リボソームストークタンパク質の構造・機能解析】
遺伝情報の翻訳は、mRNA上の遺伝情報をもとに、リボソームがアミノ酸を繋げてタンパク質を合成する過程です。この翻訳は、開始、伸長、終結、リサイクリングの4段階からなる複雑な反応であり、それぞれの段階で働く各種翻訳因子がリボソームと順次相互作用することで進行します。リボソームストークタンパク質は、リボソーム大サブユニットに複数コピー存在する長く柔軟な構造体であり、リボソームと各種翻訳因子との相互作用において重要な役割を果たしています (図1)。これまでの研究で我々は、リボソームストークタンパク質はそのC末端を介して各種GTPase翻訳因子やATPase翻訳因子と直接相互作用することを明らかにしてきました。また、リボソームストークタンパク質は、翻訳因子のリボソーム翻訳因子結合部位へのリクルート、および翻訳因子のリボソーム上での機能発現に必須なこと等を明らかにしてきました。

図1 リボソームストークタンパク質

上記のように、リボソームストークタンパク質はそのC末端を介して様々なGTPase/ATPase翻訳因子と相互作用します。しかし、なぜストークタンパク質が構造も機能も異なる様々な翻訳因子と相互作用できるのか、そのメカニズムは不明です。また、リボソームストークタンパク質は翻訳因子をどのようにリボソームの翻訳因子結合部位へとリクルートするのか、そして翻訳因子の機能発現にどのように関与するのか、それらのメカニズムも不明です。これらの謎を解決するため、我々はX線結晶構造解析や生化学・分子生物学的解析を行っています (図2)。なお、本テーマは新潟大学名誉教授・フェローの内海利男先生 (HP)との共同研究で行っています。

図2 リボソームストークタンパク質・翻訳伸長因子EF1A・Pelota複合体の結晶 (左) および結晶構造 (右)


【ペプチジルtRNA加水分解酵素の構造・機能解析】
翻訳は通常、リボソーム上でtRNA上にペプチドが伸長し、ストップコドンが存在するとtRNA からペプチドが切り離されて翻訳が正常終了します。しかし、アミノ酸の枯渇やmRNAの損傷等により、翻訳伸長がストップコドンまで到達せず、合成途中の未成熟ペプチドがtRNAに結合したままのペプチジルtRNAがリボソームから脱離する場合がしばしばあります。ペプチジルtRNAの蓄積はタンパク質生合成に利用可能なtRNAを減少させ、最終的には細胞内のタンパク質生合成は停止してしまいます。ペプチジルtRNA加水分解酵素 (Pth) は、ペプチジルtRNAのペプチドとtRNA間のエステル結合を加水分解することでtRNAをリサイクルする役割を担う酵素です (図3)。Pthはすべての生物に存在しており、バクテリアでは生育に必須なタンパク質であることが知られています。

図3 ペプチジルtRNA加水分解酵素 (Pth) の働き

細胞内に存在しているペプチジルtRNAのペプチド配列および塩基配列は様々ですが、そのような多様なペプチジルtRNA分子種をなぜPthは認識できるのか、そのメカニズムは不明です。また、加水分解の反応機構も不明です。さらに、Pthは細胞のどこでどのように働いているのかも不明です。これらの課題を解決するため、我々はX線結晶構造解析、生化学・分子生物学的解析、酵素学的解析に取り組んでいます (図4)。また、新潟大学理学部/大学院自然科学研究科の西川周一先生 (HP)と共同で、酵母を利用したPthの分子遺伝学的研究にも取り組んでいます。なお、Pthは抗生物質の新たなターゲット分子としても着目されており、本研究の成果は、新規抗生物質の開発研究の重要な基礎データとなります。

図4 Pth・tRNA CCA-acceptor-TΨC domain複合体の結晶 (左) および結晶構造 (右)